1990年・春(4)
椿慎吾は大学に入ってからも暫くは競馬という遊びには興味を示さなかった。
小学校から青明学院に通っていた彼は、競争をするということ事態にあまり興味がなく、競馬よりも中学時代から続けているテニスに夢中だったし、週末とのなれば、社会学部の同じゼミの仲間と流行り始めていたサーフィンも始めていた。
どちらかと言うと、体を動かしているほうが好きなタイプで、長身で甘いマスクのルックスを生かしてアルバイト程度に雑誌のモデルのようなこともしたりと多忙な毎日を過ごしていて、競馬には全くと言っていいほど無縁な生活をしていた。
そんな彼が競馬に興味を持ったのも、オグリキャップの存在だった。
周りの皆がオグリオグリと騒ぐので、競馬を知らなくてもオグリキャップの名前くらいは知っていたし、元々何でも1度は体験しないと気がすまないタイプだったので、1度くらいはオグリを観に行ってみようと思ってサーフィン仲間と一緒に行動を起こしたのが、海の水温が下がる秋の暮れ。
オグリが劇走したジャパンカップだった。
馬券の買い方も良く分からないまま、サーフィン仲間と初めて競馬場に行った慎吾は、とにかくオグリキャップを買っていれば大丈夫と思ったらしく、単勝、複勝、枠連のオグリからの全ての組み合わせを購入し、万全の体制でレースを迎えた。
結果は世界レコードと同タイム2分22秒2。オグリの走りは初めて競馬を見た慎吾にとっても、その走りは鳥肌モノだった。そして何より初めて買った馬券が見事に当たってしまった。
残念ながら単勝は外したが、枠連と複勝が的中。これまで体験したことのない興奮。この瞬間から、慎吾はオグリキャップ教の信者となる。
そのかわり付き合っていたミス青明学院の彼女には、「ギャンブルをする人なんてイヤ!!」と言われて振られてしまった。
彼はどんな女の子にも振られるなんてまず無いことで、人生で初めて振られるという体験をしたにもかかわらず、懲りずに競馬三昧をしているのであった。
むしろ、この競馬熱を理解してくれない女とは付き合わない。
そんな風に心に決めているくらいだ。

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