1990年・春(3)
須々木悟朗は、高校時代から付き合っている滝川怜子と大井競馬場にいったのが競馬との付き合いの始まりだった。
彼女の父はウォーターフォールズマーケットという大型スーパーや総合スーパーを国内に十数店舗持っているウォーターフォールズ社を経営している社長で、大井競馬の厩舎に馬を数頭預けている馬主でもあった。
そんな彼女の父が待つグッドラックという、彼女が名付けた馬が初めて走るというので、2人で学校をサボって大井競馬場に出かけたのだった。
グッドラックは見事彼女と彼女の父親の期待に応えて優勝。一緒にいた須々木は、一緒に口取りと記念撮影に参加させてもらい、一気に競馬ファンになった。
大学生になってからも、何度となく彼女と競馬場に出かけては、彼女の父の馬を応援したりしていて、プチ馬主気分を味わっている。
付き合って5年。2人の関係は順調だし、彼女の両親とも競馬という共通の趣味のお陰でとてもスムーズだ。最近では、どんな血統の馬を買ったら良いだろうか?とロメオ・Y・ジュリエッタというシガーブランドのチャーチルズという名のシガーを美味しそうに吸い、ロマネコンティの入ったグラスを傾けながらの父親の問いかけに応える為に、血統の勉強も始めている。怜子いわく彼がシガーを吸うときは楽しいと感じているときなんだと言っているらしい。
少し前に卒業後の進路を彼女の父親がチャーチルズに火をつけながら聞いてきたので、これはもしかして、スーパーチェーンの跡取り候補か?
などと、勝手に舞い上がっていたりもするが、彼女の方は、まだ結婚には現実的ではないらしい。
最近では海外の大学に留学したいと、フランス語の勉強のためにアテネフランセにせっせと通い、もともと得意な英語にさらに磨きをかけるために必死に勉強していてデートの約束も須々木から言わないとないくらいだ。
他に会えるとしたら、彼女の父親の馬が出走するときに呼ばれるくらいだった。やっと取り付けた約束のデートの時にはいつも親の力に頼らず、自分の力で自分の人生を切り開きたいと目を輝かせて語っていた。そんな彼女の顔をついついかわいいな、などと思って見とれてしまう須々木だが、彼女が就職希望先として外資系の商社の名前を何社も口にするたびに現実を突きつけられて我に返るばかりであった。

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